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26年越しの謎~あるノルウェーYA小説との出会い PART2~

Gunvor Hofmo(グンヴォル・ホフモー)の「親友」は「同性の恋人」だったのか、と長年の謎が氷解した”Du eneste“『ただ、あなただけ』。PART2では、本書をさらに分析します!

作者からの警告

本書の「まえがき」で作者のHilde Haugerup(ヒルデ・ハーゲルプ)はこのように記しています。
「あらゆる暗い物語であっても、希望は欠かせない。希望は結末に向かって姿を見せるだろう。
 (中略)
 そんななぐさめは、この物語には登場しない。
 ルッツとグンヴォルの物語になにか希望を見出すとしたら、あなた自身で見つけて欲しい。
 それはおそらく、物語を紡ぎ出す必要があるだろう。」

冒頭から希望がない結末であることが、警告されています。
最後の「物語を紡ぎ出す必要」という部分ですが、作者自身も最終章で試みています。つまり、ルッツが生き延びて、グンヴォルとともに幸せな人生を送るという架空のストーリーが描かれています。
読者の100人中100人が「これが真実であれば・・・」と夢見るフィクション。これは作者が「この悲劇を繰り返さない未来は、あなたたちにかかっている」というメッセージのように受け取れました。

グンヴォル・ホフモー

グンヴォル・ホフモー

ノルウェーにおける同性愛

1972年に「男性間の性行為を犯罪」とする刑法の条項が廃止されたノルウェー。その後、同性愛や性的マイノリティの権利向上が加速度的に進み、2008年には「同性婚」が制定されます。
ですが、グンヴォル・ホフモーやルッツ・マイエルが生きていた時代、同性愛はタブーでした。
ホフモーは、ルッツがドナウ号に乗せられる波止場にいたらしいと書かれていますが、その時の状況を”Jeg har våknet“(1954年)「私は目覚めていた」という詩にしています。

Jeg så min venninne,
den eneste, jeg så henne
gå for å dø.

私は女友達を見た
ただ一人の、 私は見た
死に行く彼女を

この詩では、kjæreste「恋人」ではなくvenninne「女友達」という単語が使われています。
ホフモーの詩では、愛する人についての表現は慎重であり、それゆえ、オスロ大学の講義で先生は「ユダヤ人の親友」と言ったのでしょう。

グンヴォルとルッツ

グンヴォルとルッツ

戦時下のノルウェー

ノルウェーはナチスに侵略され、国王や首相は英国へ亡命、ナチスの傀儡政権が実権を握りました。
ですが、私が学んできた「戦時下のノルウェー」はもっぱら、勇ましいレジスタンス運動、絶え間ない市民の抵抗のエピソードの方が多かったのです。
ノルウェー映画『センチメンタル・バリュー』(”Affeksjonsverdi“)では、主人公の祖母が戦時下、拷問を受けていた記録が残っているシーンを見た際は、少なからず衝撃を受けました。

本書でも、ノルウェーに侵略してきたナチス兵やゲシュタポ、キスリングの手先となったノルウェー警察、スパイたちが直接的、間接的に描かれ、ユダヤ人であるルッツの恐怖はいかばかりだっただろうと想像に難くありません。
もちろん勇ましいレジスタンス運動は実在しましたが、それだけではない「暗くて絶望的な戦時下」もノルウェーには存在していたのです。

本書の今日性

『ただ、あなただけ』が私の心を強くとらえた理由は、長年の謎が解けた以外にもあります。

作中にルッツの不安を綴ったこんな一節があります。
「世界は最悪じゃない。この社会には強靭さがあり、きっと乗り越えられると考えるだろう。
その考えにあなたはしがみつく。人は愚かじゃない、考えることができるし、大体のことはうまくいっている。
だから、突然、全てが崩れてしまうなんてことはありえない。でも違った。全ては突然、崩れてしまうのだ。」

この「世界がある日、変わってしまった」という感覚。
近年、パンデミックの大流行、ウクライナやガザ侵攻、さらに米イスラエルによるイラン攻撃に代表される世界情勢の不安定さを通じて、私たちの多くが体感していませんか?
ここ日本でも、急スピードで「戦争ができる国」作りの準備が進んでいて、対岸の火事ではありません。

本書は、YA小説というカテゴリーですが、広い年齢層にアピールする作品だと思います。
欲を言えば、ぜひ邦訳出版したいです。また機会がある度に、紹介を続けていきます!

Du eneste

Du eneste

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