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古城健志さんを悼む

ノルウェー語辞典』『日本語ノルウェー語辞典』(大学書林)をはじめ北欧語辞書の編著や翻訳で知られる古城健志さんが、1月に逝去されました。
ずっと体調が優れないことは知っていたのですが、それでも訃報に接した時には、深い悲しみと申し訳なさを感じました。あれだけお世話になったのに、私は何をしていたのだろう、と。

古城さんと初めてお会いしたのは、ノルウェー留学前、1994年ころです。少ない北欧語学習者人口なのに、まさか同じ会社にいらっしゃったのです・・・偶然に驚きました。留学前や留学中、いろいろとアドバイスをいただきましたが、本格的にお世話になったのは、最初の留学終了後です。
1996年、志望していたノルウェーの大学に進めず、1年だけの留学で不本意ながら帰国しました。肩書はなく、どうにも中途半端。居場所は見つけられず、軽い引きこもり状態に。そんな鬱々とした日々、古城さんに「本郷三丁目で北欧語の読書会をやっているので参加しませんか?」と誘っていただきました。
本郷三丁目の名曲喫茶「麦」で月2回、北欧5か国語の読書会が催されていました。横山民司先生を中心に、デンマーク語、スウェーデン語、フィランド語、アイスランド語、そしてノルウェー語のテキストを読む人たちがひそやかに集まっていたのです。「来るもの拒まず、去る者追わず」の雰囲気で、私も参加が許されました。ノルウェー語のテキストの音読と意訳をしましたが、諸先輩方にミスやアドバイスをいただき、貴重な経験になりました。「ノルウェー語なんて日本では何の役に立たない」はずだったのですが、読書会では私にも役目がありました。「こんなお金にもならないことを続けてもいいのかもしれない」と、少しずつ前向きな気持ちになり、もっと勉強しようと決意します。
それから、短期2回、長期のノルウェー留学へとつながっていきました。

古城さんはいつも一番最初にお店にいらっしゃって、最後まで残っていました。毎日、決めたページの原書を読んでいるとお聞きして「ああ・・・できる人はたゆまぬ努力をしているのだ」と思い知らされました。
『ノルウェー語辞典』の編集作業の時、「ノルウェー語は大変です」とこぼしていました。そうですよね。スウェーデン語やデンマーク語にはない女性名詞があって、しかも扱いが中途半端ですから。
努力家で几帳面で、そして謙虚な古城さんだったからこそ完成できた辞書だと思います。私には絶対に無理です。
「青木さんが留学したVoldaを辞書の見出し語に入れましたよ」と、お茶目なことをして下さったのは懐かしい思い出です。

さて、以前のブログにも書いていますが、2回目の長期留学後も紆余曲折ありました。離婚、会社勤めをしながらのノルウェー語の仕事の掛け持ちで、心身ともに辛かった時期があったのです。
古城さんは、私のためにノルウェー語の仕事を探して下さったり、親身に相談に乗ってくれました。
ようやく『語学王ノルウェー語』(2004年、現在は『ゼロから学ぶノルウェー語』)を刊行した際には、本当に喜んで下さり、とても丁寧な感想文を頂戴しました。それからも語学書や訳書の献本を続け、毎回、優くて的確な感想を書き記して下さいました。

多忙を口実に、北欧語読書会の参加をずっとさぼり、古城さんとは会えないままになっていました。10年くらい前、古城さんは膨大な蔵書の中からノルウェー語書籍を送ってくれました。「今のうちに整理をしたい」とのことでしたが、どんなお気持ちだったのか。やがて体調を崩され、読書会にも参加されていないと知ります。
年賀状や献本の挨拶だけでの付き合いが続き、それでもたまに「古城さんはどうされているのだろう?」とふと思う時がありました。古城さんはメールを使いません。いつも達筆なはがきでしたが、ある時、少し筆跡が乱れているはがきを頂戴して、胸に迫るものがありました。思い切ってご自宅にお電話をかけたのが2年前です。久しぶりにお声を聞き「ああ、話し方や声が昔とは違う」と感じましたが、それでも唐突な電話に付き合って下さり「これからも頑張って下さい」と励まされ、涙が出ました。それから何日か後、短い言葉が添えられたはがきが届きます。あれだけ体調が悪い中、したためて下さった貴重なはがきでした。

古城さんの功績は出版物だけに限らず、読書会を通じて様々な人を支えていたことだと思います。お世話になったのは私だけではなく、他言語の方にも気を配っていたことが思い出されます。読書会はボランティアで、あれだけの時間と労力を割いて下さったことに頭が下がります。
もともと理系で、言語専攻ではなかった古城さん。最初にスウェーデン語の学習を始めたのも、かなり遅かったと聞いていました。そのせいでしょうか、「できないこと」に対してとても寛容でした。

生前、不義理を重ねてばかりでした。
私はあと何年、仕事ができるかわかりませんが、少しでも古城さんが愛された北欧語の一つ、ノルウェー語にこだわり続けたいと思います。
ご冥福を心からお祈りいたします。Tusen takk for alt.

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