ブログ

スウェーデン映画『リトル・エッラ』レビュー

ノルウェー人のChristian Loクリスティアン・ローが監督したスウェーデン映画『リトル・エッラ』(原題”Lill-Zlatan och Morbror Raring“)を一足早く試写会で観ました!
あの奇跡のような『ロスバンド』のクリスティアン・ロー監督の作品です。期待しないわけにはいきません。

あらすじ

大好きなトミーがとられちゃう!
人と仲良くするのが苦手な人もいる。特にエッラにとっては難しいことだった。
エッラが唯一仲良くできるのは、おじさんで、”永遠の親友”であるトミーだけ。両親が休暇で出かけている間、トミーと過ごすのを楽しみにしているエッラだったが、夢の1週間は悪夢へと変わってしまう!
オランダからトミーの恋人スティーブがやってきたのだ。
トミーとスティーブが英語で話すため、何を話しているのか全く分からないエッラ。のけ者にされたような気分になり、トミーを取られるのではないかと気が気ではない。親友を取り戻したいエッラは、彼女と友達になりたがっている転校生オットーの力を借りてスティーブを追い出すための作戦を実行するのだが….。(公式サイトより引用)

リトル・エッラ

© 2022 Snowcloud Films AB & Filmbin AS

原題”Lill-Zlatan och Morbror Raring”を読み解く

『リトル・エッラ』の原題に使われた”Lill-Zlatan”。主人公エッラの愛称ですが、Zlatanって誰?スウェーデンの国民的サッカー選手Zlatan Ibrahimovičなのです。日本では「イヴラヒモヴィッチ」の方で親しまれています。スウェーデンのサッカー選手ですが、ノルウェーでも人気は高く、ピッチ内外でのニュースが報道されていました。エッラは女の子ですが、男性スポーツ選手の愛称を持つジェンダーを超えた登場人物だと分かります。
Morbror”はmor「母」のbror「兄弟」の合成語で「おじさん」を意味します。最後のraring「可愛い、愛らしい」という意味ですが・・・ノルウェー語だと「変人」を意味します!なので当初「変人おじさん」と変換していました・・・ノルウェー語とスウェーデン語、とても似ていますが思わぬ落とし穴があります!

エッラとティルダ

エッラは『ロスバンド』のチェリストのティルダと多くの共通点があります。二人とも女子小学生であること、親とのつながりが希薄であること、同性の友達がいないこと、夢中になれるものを持っていること(エッラはサッカー、ティルダはチェロ)、そしていわゆる「子どもらしさ」を覆す「強い自分を持った」存在であること。二人とも笑顔も見せますが、不機嫌だったり不安そうな表情が印象的なんですよね。特にエッラが最愛のトミーを奪われそうな時に見せる表情…ぜひスクリーンで確認してほしいのですが、ニュアンスに満ちていて素晴らしいです。エッラもティルダも「子どもには、女の子にはこうであってほしい」という大人の期待に忖度しない強い自分を持っています。

愛すべきキャラクターたち

『リトル・エッラ』は大作ではありません。なのでありがたいことに登場人物がそれほど多くないのです!ややこしい登場人物相関図に頭を悩ませる必要はありません。
クリスティアン・ロー監督は、『リトル・エッラ』でも全てのキャラクターを愛情たっぷりに描いています。主人公エッラは大好きなトミーと一緒の時は幸せそのものですが、オランダから恋人スティーブが現れると嫉妬や疎外感、怒りといった「負」の感情に支配されます。「子どもって可愛い」と無邪気に言えない人間らしさが際立っています。一方、おじであり親友のトミーは「こんなおじさんが欲しいな」という夢を叶えてくれた完璧なキャラクター。姪のエッラをいわゆる「子ども扱い」しない姿も魅力的です。恋人のスティーブはエッラにとっては憎いライバルですが、ポジティブの塊のような愛すべきキャラクター。トミーの恋人が男性であることに作品では違和感を持たせず、観客もごく自然に受け止められます(エッラはスティーブのことを”en ful och äcklig subba“=嫌らしいくそババアと表現するシーンはありますが)。さらに同級生のオットーは辛い過去をさらりと吐露しつつ、愛する人が奪われる痛みを理解し、エッラの良き助っ人。花を愛する少年は時に人生を達観したような名言を映画に添えます。その他いわゆる「脇役」の人にも存在意義を持たせた本作は、彼ら・彼女らの出番でクスっと笑えたり、おおーー!と感動的なシーンにつながります。

リトル・エッラ

© 2022 Snowcloud Films AB & Filmbin AS

音楽の魅力、カーチェースの爽快

クリスティアン・ロー監督はノルウェーのインタビューで「音楽愛」を熱く語っています。『ロスバンド』は音楽ロードムービーの傑作でした。『リトル・エッラ』でもご安心ください!絶妙な劇伴が流れます。エッラとトミーがカラオケで歌うお気に入りの曲”You and Me Song“は多幸感を確実に高めてくれます!劇場を出た人の99%が口ずさみたくなるラブリーな一曲♪
さらに『ロスバンド』でも登場したカーチェースが『リトル・エッラ』でも繰り広げられます。これもぜひ大きなスクリーンで体感してほしい爽快なシーンでした!

街とインテリアに注目

『ロスバンド』ではノルウェーの南からスウェーデンを経由して北のトロムソに至るロードムービーで美しい風景を満喫できました。
私は『リトル・エッラ』の舞台、ストックホルムに久しく訪れていないのですが、スクリーンで映し出される街の様々な風景に魅了されました。エッラとトミーがアイスを食べながら歩く夕焼けの港、オットーがお花を供える墓地、エッラが元気よく走り回るサッカー練習場・・・・ロケ地めぐりをしたくなる魅力にあふれたスポットばかりです。
トミーのフラットと美容サロンのインテリアも素敵です!ノルウェーのレビューではトミーのフラットを「IKEAのモデルルームのパロディ」と表現しています。さて実物は?こちらもぜひスクリーンでご確認ください。

監督来日!

そうなんです、クリスティアン・ロー監督がノルウェーから日本へやって来ます!Velkommen!
来日スケジュールはこちらをご参照ください。来日記念で『ロスバンド』もアンコール上映するとのこと、未見の方、すでに観たけど「また観たい!」という方、ぜひ劇場へGO! ノルウェー愛を盛り上げましょう♪ 私は通訳として来日イベントに参加いたします!こんなにびっちりな通訳仕事は久しぶりなので、不安はありますが・・・大阪へ行くのは何年ぶり??いずれにせよ、クリスティアン・ロー監督は絶対にとびきりの「いい人」に違いないと確信し、監督のメッセージを皆さまに届けるお手伝いをしたいと思います!

公式サイト:https://culturallife.co.jp/little-ella/
2024年4月5日より、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、 シネマート心斎橋 他全国ロードショー

コメント

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。