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『わたしの糸』刊行記念トークショー

10/10、谷中ひるねこBOOKSさんにて『わたしの糸』(トーリル・コーヴェ作、青木順子訳、西村書店)刊行記念トークショーを開催しました。
準備がはかどらず、当日は緊張していたのですが、とても優しいお客さんたちに恵まれて、達成感がありましたね。
トークショーについて振り返ってみたいと思います。

パワーポイントを使わず、絵本についてじっくり話すスタイルは、聞いている方も大変かしらん?と大きなスケッチブックを用意しました。
トーリルさんのプロフィール紹介は基本編&トリビア編をピックアップします(犬派?猫派?など)。

スケッチブック持参

作品紹介では、以下の作品を取り上げました。
Min bestemor strøk kongens skjorter「王様のシャツにアイロンをかけたのはわたしのおばあちゃん」(2000年)
ノルウェー独立後、初の国王となったホーコン7世と語り手となる私のおばあちゃんの不思議な縁。ドイツ軍が侵攻した際、おばあちゃんやその仲間たちが取った痛快な抵抗作戦とは?
一人の女性がドイツ軍にアイロンで立ち向かうユーモラスな作品。

Den danske dikteren「デンマークの詩人」(2007年)
昔、デンマークのコペンハーゲンにスランプに苦しむ若く貧しい詩人カスパーがいた。休養先に訪れたノルウェーの農場の娘インゲボルグと、紆余曲折の末に結ばれる。ノルウェーの国民的作家でありノーベル文学賞作家のシグリ・ウンセットが思わぬキューピットに??偶然が生み出す奇跡をユーモラスかつスタイリッシュに描いた作品。

・”Moulton og meg“『うちってやっぱりなんかへん?』(ノルウェー版2014年、日本語版2017年)
60年代のノルウェー。3姉妹の真ん中の「わたし」は個性的な建築家の両親に悩んでいた。3本足の椅子やパパのひげ。わたしは普通が良かったのにと悩む日々。普通の見本のようなお隣の家族に憧れていたが、ある日、お父さんが出て行ってしまう。わたしたちは両親に自転車をねだっていたが、ようやくイギリスから届いた自転車はへんてこりんなものだった。どうするわたし?「人と違う」ことを受け入れていく少女の成長が、作者の体験をもとに描かれた自伝的な作品。

トーリルさんの絵本

実物の絵本を見せながら紹介しましたが、ここですでにバテました!
トーリルさんの作品はまず短編アニメーション映画を制作し、絵本化するというユニークなもの。普通は逆ですよね?去年のトーリル・コーヴェさん来日トークショーでご本人が語っていますので、ぜひこちらもご一読ください。

さて過去の3作品と比べると『わたしの糸』は違いが目立ちます。ノルウェーや北欧でもなく「特定できない場所」が舞台、描かれたキャラクターも●●人とは特定できません。
本作品はぜひ短編アニメーションも見てほしいので、絵本にリンクやQRコードが掲載されています。トークショーでもPC画面で流しました。


“Threads” Torill Kove, provided by the National Film Board of Canada

トーリルさんが「上映後、観客が静まり返る」と言っていた同作品。店内も静かになります。
シンプルなイラスト、テキストもとても少ない『わたしの糸』は、自由な解釈や読み方が可能でしょう。翻訳作業に入る前、トーリルさんに創作プロセスなどをお聞きしたのですが、「私一人が知っているのはもったいない!」と感じ、トークショーでお話ししました。
キーワードとして以下の4つを挙げます。
Adopsjon「養子」
Kjærlighet mellom mor og barn「母と子の愛」
Den røde tråden「赤い糸」
Finne sin egen vei「自分の道を見つける」

トーリルさん夫妻は、中国からの養子がいます。「養子」が人生において大切な意味を持つことになり、それをテーマに脚本づくりに着手したそうです。ただ意外だったのは「養子の家族が体験するような嫌な体験をした」と教えてくれたこと。変なことを言われたり、あほらしいことを聞かれたり・・・それを知った時、「え??なんで?」と不思議でした。
少なくともノルウェーには中国や韓国、他の国から来た養子は珍しくなく、すでに「市民権」を得ていると思っていたからです。ノルウェー語を話し、ノルウェー人として生活をしている様子は垣間見てきました。
でも8月、ノルウェー中を震撼させる事件が起きました。極右思想の青年が義理の妹を殺害し、モスクを襲撃。その義理の妹はアジアからの養子であり、人種差別的な動機だったと報道されています。
この事件をきっかけに「自分も差別、不快な体験をしてきた」と外国からやってきた養子たちが声を上げ始めたのです。ようやく私は「ああ、そういうことだったのか」と自分の認識の浅さに気づいたのでした。

それでは、『わたしの糸』にそのような描写はあるでしょうか?答えはnei。トーリルさんは「養子」からスタートし、もっと大きなテーマに広げていくことにしたのです。
トークショーでは、トーリルさんが参考にした「マズローの自己実現理論」を説明しながら、それが絵本の中でどのように描写されているかお話ししました。ほかにも「父親不在」のシンプルな理由や「誰かから愛され、大事にされることの大切さ」にも触れます。

物語で重要な役割を果たしている「赤い糸」。中国が由来ですが、ノルウェー語にもある表現です。
「運命の赤い糸」とも表現しますが、親子や恋人、夫婦、他にももっともっと感じることがありませんか?と参加者の皆さんに問いかけました。
私はたまたまオーロラツアーの行き先がノルウェーでしたけど、もしフィンランドだったら??今頃「フィンランド伝道師」になっていたでしょうか?

思えば、トークショーに来て下さった皆さんとも何らかの「糸」でつながっていたかもしれませんし、そもそも日本語版が出版できたのも、たくさんの方々が糸を紡ぐように助けて下さった結果なのですー。
絵本を読み返したり、映画を観ると、様々な人や場面が思い浮かびます。残念ながら切れちゃった糸もありますけど・・・ね?

トーリル・コーヴェさんは本書を「愛と自立の物語」と強調されていました。そうなんです、「自立」も大切なキーワードなんです。引用しますね。
「いつか あなたは 大きくなり、自分の力で 歩き出す
そして、この世界に 自分の道を 見つけるでしょう」

ここで先に出版されたカナダの英語版をお見せしました。表紙やサイズも違いますが、翻訳もオリジナルとは異なる部分があります。
「そしてこの世界に自分の道を見つけるでしょう」の部分が、英語版ではまるっとなくなっていて、ええーーと驚きましたね。英語版はより「赤い糸の結びつき」を強調し、やや抽象的なテキストがわかりやすくなっています。ですが、トーリルさんが大事にしているメッセージを削除はしたくない、と日本語版ではもちろん残しています。

英語版とノルウェー語版

途中、脱線もあって時間があっという間に過ぎていきました!
慌てて、とっておきの絵本”Hvor skal kattene bo?”「どこに猫は住むの?」(2016年)を紹介します。

ネコ絵本です

1つもテキストがない絵本なので、めくりながら、私がざっくりと説明をしました。男女が一緒に暮らす際に、2匹の子猫も飼うことにしました。楽しい2人と2匹の暮らしは段々と雲行きが怪しくなり、ついに同棲は解消。2匹の猫も別れ別れになってしまい・・・という内容です。予想を裏切るラストは、参加者の皆さんも驚かれたよう。「エスプリ」という言葉がぴったりの絵本、日本でも出版されないですかねー、と呼びかけちゃいました。

質疑応答では、タイトルの付け方や表紙について、英語版との比較などとても興味深い質問をいただきTakk!ですー。
『わたしの糸』も予想以上に売れて、ありがたやーと感謝感謝。参加して下さるだけで感涙ものなのに、プレゼントまで頂いてしまい、もうひれ伏すしかありません・・・。
そのうちの一人にNORLA(ノルウェー文学海外普及協会)の翻訳セミナーでお世話になったAnne Lande Petersさんもいました。ノルウェー語で少しお話しができました。
お忙しい中、参加して下さった皆さま、そして前作に続き刊行記念トークショーを開催して下さったひるねこBOOKSさん、ありがとうございました♪
私の方でも、ノルウェーで買ったものを皆さんにお渡しします。

統一感のないプレゼント

トーリル・コーヴェさんの作品は、作風は違えど「あ、これはトーリルさんだ」と思える何かがあると思います。
今回の準備段階で、すでに読んで下さった方からの感想を拝読しました。私にはない視点や感想を読むことができて、とても貴重でした。
日本でも、もっとたくさんの人に届くように、布教につとめますね!

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刊行記念トークショー第2弾が決定です!

タイトル:『わたしの糸』刊行記念 制作秘話とノルウェーの物語に見る「たくましい女性たち」
日時:2019年11月28日(木)18時半~20時
会場:ブックハウスカフェ 2F(千代田区神田神保町2-5北沢ビル 最寄り駅「神保町」)
参加費:1500円 書籍(1780円)と参加費で3000円のお得セットもあります!
予約方法:お店や電話(03-6261-6177)、メール(yoyaku@bookhousecafe.jp)
詳細はこちらから。

2部構成のトークショーです。
『わたしの糸』を中心としたトーリル・コーヴェさんの紹介。さらに、コーヴェさんの作品にからめ、「男女平等先進国」ノルウェーの原点ともいえる民話や物語、絵本をご紹介します。
ノルウェー民話は「三びきのやぎのがらがらどん」が有名ですが、たくましすぎる「おばさん」が登場します!
日本でも人気のある『スプーンおばさん』(アルフ・プリョイセン)は、ノルウェー語版で読むと「おばさん強い!」をもっと実感できます。
「なぜノルウェーは男女平等が進んでいるの?」と聞かれることがありますが、民話や童話などをひもとき、「たくましい女性」の系譜をたどりましょう♪

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