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『わたしの糸』&ノルウェーの「たくましい女性たち」トークショー!

9月~11月はいつになくトークショーや講演会が多かったです。北欧ぷちとりっぷ、朝日カルチャー、ひるねこBOOKS、福岡県大刀洗町、そしてブックハウスカフェ。ひるねこさん以外は、全部、パワポを作ったので「ハガキ職人」ならぬ「パワポ職人」と化してました・・・・。テーマが重なっていないので「1から作る」でしたねー。

ブックハウスカフェさんでのトークショーは、半ば「悲願」でした。昨年、トーリル・コーヴェさんの来日記念トークショーを催した時の会場がブックハウスカフェさんだったのです。その際、『わたしの糸』の原作アニメーション映画”Threads”を上映し、ノルウェー語版の絵本も紹介しました(こちらのブログをご参照ください)。店長の茅野由紀さんが「ぜひ日本語版が出版されるといいですね。その時は、イベントをやりましょう」と励ましてくれました。茅野さんは、出来の悪い生徒であっても優しく見守る先生のような存在です。なので、9月に『わたしの糸』(トーリル・コーヴェ著、青木順子訳、西村書店)が刊行され、ブックハウスカフェにお邪魔して「出ました!」と茅野さんに持参しました。そして「ぜひトークショーをやりたいです」と直訴し、どこまでも優しい茅野さんは私のわがままを聞き入れて下さいました。さらに版元の西村書店さんが全面的に協力して下さることになり、ありがたい~と感謝です。

たとえ聴衆が違っていても「全く同じ話はしたくない」という悪い癖があります。10月にひるねこBOOKSさんで『わたしの糸』を始め、トーリルさんの作品をたっぷり紹介したので(こちらのブログをご参照ください)、ブックハウスカフェさんでは「プラスアルファ」なテーマを考えました。ノルウェーの民話や物語には「たくましい女性」が登場します。「ノルウェーはなぜ男女平等な国なのですか?」と聞かれることがありますが、こうした「たくましい女性」の系譜にヒントがあるかも?と仮定し、トークショーのタイトルは「『わたしの糸』刊行記念 制作秘話とノルウェーの物語に見る”たくましい女性たち”」にしました。

パワポ制作と告知にいそしむ日々。しかーし、なんということでしょう。数日前から悪性の風邪を患ってしまい、ほとんど声が出なくなってしまいました・・・(カヒミ・カリィというより、一番弱っている頃の明菜ちゃんをイメージして下さい)。そんな中、11月28日を迎えます。たくさんの本をリュック2つに詰め込み、ヨロヨロしながら持ち込みました・・・。開場時間近くとなり、30人近くの方がご来場して下さいました。ありがたいですーーーー。

入口にたくさん並べていただきました!

担当編集者の植村志保理さんが聞き手として横に座り、トークショーは開始しました。
簡単に自己紹介から始め、「なぜ絵本の翻訳に興味を持つようになったのか?」について、『パパと怒り鬼』出版経緯に触れました。
『わたしの糸』のプレゼンに移り、トーリル・コーヴェさんと作品紹介、そして短編アニメーション”Threads”を上映しました。


“Threads” Torill Kove, provided by the National Film Board of Canada

何度見ても、見飽きない作品です。それから、絵本の朗読、トーリルさんから伺った作品誕生までのプロセスや、作品に込めた思いなどをご紹介します。植村さんは編集者として感じたこと、寄せられた反響などを話して下さいました。
それから第2部の「たくましい女性たち」へ続きます。

正直、風邪で喉が痛くて声を出すのが辛かったです。「こんなひどい声で申し訳ない・・・」と悔やみつつ話していたのですが、第2部になってから吹っ切れてきました!
まずはNorsk Folkeeventyr「ノルウェー民話」の紹介からスタートです。

「ノルウェー民話のとてつもない重要性」にちゃんと気づいたのはいつでしょうか?ノルウェー留学時、文学の授業で最初に読んだのが民話でした。ほとんどのノルウェー人の家には、民話集が置いてありました。ノルウェーの様々な作家が影響を受けた本に「民話」を挙げていました。そして、翻訳家の山内清子さん(故人)が講演で「ノルウェー民話」を選び、ユニークさを強調されていました!
準備段階で、Asbjørn & Moeアースビョルン&モーが編纂した民話集2冊を読み直しましたが、そのボリュームに圧倒されます。民話といえば、おなじみの登場人物がいますね。Troll(トロル)、Askeladden(幸運な男の子)、Kongen(王さま)とPrinsesse(お姫さま)などなど。その中にKjerringaがいます。元々「既婚女性、妻、年配女性」を意味する単語ですが、日本語では「おかみさん、おばさん」と訳されることが多いですね。

話し出すと止まらない・・・

今回は”Kjerringa mot strømmen“をまず取り上げました。日本語訳書籍を見つけていないので、「川をさかのぼったおかみさん」(仮)と紹介します。
気の強いおかみさんとご亭主の喧嘩がエスカレートし、あくまでも自分の主張を曲げないおかみさんにご亭主は激高し、川底へ沈めてしまいます。不屈のおかみさんは沈められても抵抗を続け、ついには・・・というかなり激しい民話なのです。ほっこり北欧のかけらもなく、留学時に読んだ時の衝撃は、今でも覚えていますよー。
Kjerringaという単語は、今でも使いますが、そう呼ばれて喜ぶ人はいません。「おばさん、ババア」みたいなニュアンスですから。ただKjerringa mot strømmenは良い意味のイディオム表現として使われます。「自分を貫く意志の強い人」を意味し、新聞の見出しなどで多用されています。数ある民話の中でも、こちらのKjerringaが最強でしょう。

Kjerringa mot strømmenより

他にも”Mannen som skulle stelle hjemme“(日本語絵本『しごとをとりかえただんなさん』)という民話を紹介しました。おかみさんは家で楽していいなぁ、と不満そうなご亭主。おかみさんは「じゃあお互いの仕事をとりかえましょう。」と提案し、おかみさんは畑へ、ご亭主は家事をすることになります。楽勝だったはずの家の仕事で、ご亭主は辛酸をなめることに・・・、というお話。ここに登場するKjerringaは、自分では手を汚さずに、不満そうなご亭主の自滅を待っているタイプ!とかなり独断的にで紹介しちゃいました。

時代を遡って60年代に活躍したKjerringaのお話しに移ります。はい、Alf Prøysenアルフ・プリョイセンが生み出した”Teskjekjerrina”「スプーンおばさん」ですね。
50年代~60年代、ノルウェーのラジオの子ども番組で人気を博したプリョイセン。スプーンおばさんもラジオから誕生し、スウェーデンでまず書籍化されます。今まで26か国語に翻訳されていますが、各国語版の表紙を映しました。

各国語版のスプーンおばさん

日本では80年代に制作されたアニメーションでご存知の方が多いと思います。ノルウェー語の原作と日本語訳を比較すると、よりスプーンおばさんの「強さ、たくましさ」が実感できました。ご亭主に命令するシーン、意外と多いです。そもそも、ある日突然、ティースプーンくらいの大きさになってしまったおばさんですが、ほぼ動じることのない精神力ってすごくないですか??かたやご亭主は、スプーンおばさんが小さくなっちゃったらどうしよう?と終始、ビクビクしています。スプーンおばさんは、力づくではなく言葉巧みにご亭主の気持ちを動かし、小さく弱きもの(動物たち)を助ける正義感が爽快ですねー。

・・・と風邪声に苦しみながらもプレゼンを続けていたら、横の植村さんが「あと5分です!」と知らせてくれて、ひーーーーと悲鳴をあげそうに・・・・。まだスライドが何枚も残っています。風邪と加齢のせいでしょうか、終了時間を30分間違えていました。そこからは駆け足です!「たくましいおばさん」つながりで、トーリル・コーヴェさんの絵本”Min bestemor strøk kongens skjorter“「王様のシャツにアイロンをかけたわたしのおばあちゃん」=ナチスドイツにアイロン1つで立ち向かったおばあちゃんの物語を紹介。さらに「たくましい少女たち」というテーマで、”Aurora i Blokk Z“「Z棟のアウロラ』(Anne-Cath.Vestly著)を取り上げました。66年に出版された本ですが、働くママ、博士課程で家事育児をするパパという「性別役割分業を逆転した両親」を設定し、その娘アウロラがどんな体験や成長をするか、早口でお話ししました。

Aurora i Blokk Z

「人と違うことで体験する痛み、悩み」は、トーリルさんの『うちってやっぱりなんかへん?』の主人公「わたし」と共通します。本作も紹介する予定でしたが、間に合わず無念の割愛です。昔のブログで作品を取り上げているのでぜひこちらからご覧ください。ともに60年代のノルウェーが舞台の作品です。今読むと伝統的な性別役割分業に「隔世の感」があるかもしれませんが、日本と比べると面白いかと思います。

まとめの中で『北欧の昔話』(福井信子・湯沢朱美編訳、こぐま社)に載っているあとがきから引用しました。執筆は東海大学の福井信子先生です。「北欧らしい特徴は何かと考えるなら(略)、きびしい自然や質素な生活のあらわれかもしれませんが、王様やお姫様が出てくるお話にしても、あまり華やかな感じはしませんでした。身分の高い人もそれほどぜいたくな城に住んでいるわけではなく、気さくな人柄が感じられます。男も女も懸命に働かなくては暮らしていけない社会なのでしょう、繊細で無力な姫よりも、てきぱきと行動する娘、自分の意志を通す強いおかみさんが多いという印象を受けました。

「きびしい自然」という言葉はノルウェーを形容する際に多用されます。今回の準備で「民話」に思いを馳せましたが、それとともに「ノルウェーの自然」について改めて考えました。ノルウェーの自然は美しく、そして厳しい自然なのだと。岩だらけの地面、起伏の激しい道、険しい山、船でしか渡れない島、鉄道網がない地区、そして暗くて長くて寒い冬・・・。最初の留学中、凍った道にすっころび、山道で息も絶え絶えになった私は、幼ない頃から、厳しい自然で生きていく術を学んできたノルウェー人との「差」を感じました。この自然環境が、ノルウェー人の価値観、国民性、文化などどれほどの影響を与えてきたのでしょう?当たり前すぎて見過ごしてきたかもしれません。
その厳しい環境で生きていくために「自立」が重んじられているのでしょう。「自立」は『わたしの糸』の大事なテーマでもあります。

山道でのスパルタ自転車訓練!

質疑応答の時間が取れずに、本当に申し訳ありませんでしたー。ありがたいことに『わたしの糸』の絵本を買って下さる方が多く、別室でサイン会をやりました。久しぶりにお目にかかる方が何人かいらっしゃり、おしゃべりができて、準備の苦労や風邪の辛さなど吹っ飛ぶ気持ちになりました!「他では聞けないお話、興味深かったです」「川をさかのぼったおかみさん、強烈でした」「最後の飛ばした部分が聞きたいです」など労わるお言葉もいただきました。ぜひ何らかの機会で「完結編」をお話しできれば・・・・と願っています。

ご来場くださった皆さま、ブックハウスカフェさま、そして西村書店のみなさま、Tusen takk!引き続き、ノルウェーの魅力や面白さを多面的に伝えていきたいと思いますー。

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